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あなたは犬派?それとも猫派?
どうでもいい様な質問だと思うが、もしそう訊かれたら迷わず犬派と答える。

私がまだ小学生の頃、捨て犬なんてのは日常茶飯事で、大きくなった捨て犬は、最近ではまったく見られなくなった野良犬として路上をうろうろしていた。
かろうじて拾われた犬は人間とともに暮らすのではなく、雨露をしのぐ軒先につながれ、残飯で腹を満たし、その恩に報じて番犬となることを課せられていた。
今のペットブームから思うと、犬にとってはまことに不遇の時代であったかもしれない。

その頃、我が家に私が拾ってきた「アキ」という名の雌の雑種(今ではミックスというらしい)がいた。
アキは子犬のくせに愛嬌がなく、そのことが私の興味をひいたので、段ボール箱に入れられた子犬の中から私はアキを拾い上げたのだった。

アキは、体は白いが、目の周りと両耳だけに茶と黒の毛が生えていた。
母はアキを一目見るなり「なんとまぁ、えげつない雑種やなぁ」と言った。
しかし、アキはたいそう賢い犬で、軒先よりワンランク上の玄関内につながれた。
成犬になってからは決して無駄吠えをせず、玄関を排泄物で汚すこともしなかった。
アキの楽しみは、散歩もさることながら、仕事から帰った母と叔母が夕餉で一杯気分になった頃、家の中に上げてもらえることであったと思う。
畳が彼女の肉球にどんな感触を与えたのか想像もつかないが、家の中でのアキはくすぐったいようにはしゃぎ回り、しゃべりたくて仕方ないように吠えては皆を笑わせた。
角瓶を愛飲していた叔母は、酒の肴に、はしゃぐアキを脇に座らせ、アキの白い手にお膳の上のおかずを小指の先ほどに小さくちぎって乗せる。
「まだ!」
そう命令されると、アキは決して自分の手に乗せられた小さなご馳走を食べようとしない。
それを確認した叔母はわざとテレビに目を移し、アキがじっと我慢しているのを楽しんでいる。
見かねた母が言う。「もうええんちゃう?」
アキは「よし!」と言われるまで、ヨダレをポタリポタリと落としながら、食べたいのを我慢しているのであった。

夕餉が終わり、母が後片付けに立っても、アキは叔母の脇に座っていた。
寒い冬でも、炬燵にもぐりこんだりしなかった。
ほろ酔いになった叔母が時計を指差して、
「アキ、何時?」
というと、アキはすごすごと玄関に引き返していくのだった。

それから数年後、叔母は結婚して渡米し、我が家には母が知り合いからもらったヨークシャテリアがやってきた。
血統書付のテリアはきた当初から家の中で可愛がられ、その次には結婚した姉が亭主と犬を連れて帰ってきた。
姉の犬も雑種だったが、アキよりまだランクの高い板の間につながれた。

アキの黄金時代はヨークシャテリアと新参者の雑種に取って代わられたが、それでもアキは玄関に置かれたプラスチックの籠で17年という長寿を全うした。

アキはだんだんと白濁していく目で何を見つめただろう。
目の前の板間の向こうにある畳ではしゃいでいるのは、かつての自分ではなく、血統書の付いたヨークシャテリア。
血統書は犬が決めたものではなく、人間が勝手に作り上げたものだ。
それでも、アキは「ひょっとしたら、明日は鎖を外されて、かつてのようにあの茶の間にあがれるかもしれない」と期待しただろうか。

アキが死んだ夜、アキは今までにない遠吠えをした。
我が家は大阪の下町にあり、しかも深夜のこと、犬に鳴かれては近所迷惑になるのである。
母が「アキ、鳴いたらあかん!あかんねんで!」と言い聞かせても、
おんおんと鳴く。
無駄吠えしないアキが、おんおんと鳴いたのだった。

―――あんなに怒らなければ良かった
アキが死んだ後も、母はずっと後悔していた。
アキはきっと自分の目に写るものが、次第に藍色から深い闇に落ちていくのが怖かったのにちがいないと。

私は感情移入が激しい方なので、これを読んで下さった方には馬鹿馬鹿しい感傷と受け取られるかもしれない。

でもね、鍵っ子だった私。
学校から帰って、玄関の鍵を開けると、プラスチックの籠の中で年老いたアキが丸くなったままでも、ひょいと顔をあげて、さも「おかえり」と言わんばかりに目を向けてくれたのが忘れられません。
やはり、私は犬派です。













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FC2blog テーマ:エッセイ - ジャンル:小説・文学

【2006/02/26 22:01】 | 未分類 トラックバック(0) |


寿司屋のおかみさん小話
アキの気持ちを思うと涙がでますね。
わたしも、犬派です。
でも、昔、猫を飼っていたことがありますが。
年老いてきたある時、足を折ってしまい、
みんなで看病していましたが、何かを悟ったように
さりげなく、いなくなってしまいました。
まるで自分から身を引くように・・・。
自分の死期を予感したのだろうと言った父の言葉に
えんえんと泣いたのを覚えています。
懐かしいなあ・・・・。^^


kurumi
私は何がなんでも猫派です。
今も横で「たま」が寝ています。
毎朝、「たま」になんであんたに腕枕せなあかんねん!と突っ込みながら
起きています。
でも、かまうと引っかかれます。そんな猫が大好きです。v-238


senju
おかみさんへ
コメントをありがとうございます。
ペットとの暮らしは楽しい思い出あり、哀しい思い出あり。
アキが死んで20年以上も経つのに、いまだにアキの匂いを覚えています。
あまり、いい匂いじゃなかったからかな・・・



senju
kurumiさんへ
腕まくらしてもらって眠るとは、たまちゃんも贅沢なねこちゃんですね。
でも、腕まくらはしてあげるより、してもらうほうがいいかも?


おはな
senjuさん、こんばんは。
私も、4年前に愛犬を亡くしました。
アキちゃんと重なるところが、いっぱいあります。
亡くなる日、1回だけ遠吠えしたのも同じです。
今でも忘れられません。
ほんとに悲しかった。
sennjuさんの気持ち、とってもよくわかります。
愛犬との生活の日々は、宝ですね。
そして、年老いていく愛犬の様子、別れは切ないですね。

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コメント
この記事へのコメント
アキの気持ちを思うと涙がでますね。
わたしも、犬派です。
でも、昔、猫を飼っていたことがありますが。
年老いてきたある時、足を折ってしまい、
みんなで看病していましたが、何かを悟ったように
さりげなく、いなくなってしまいました。
まるで自分から身を引くように・・・。
自分の死期を予感したのだろうと言った父の言葉に
えんえんと泣いたのを覚えています。
懐かしいなあ・・・・。^^
2006/02/27(Mon) 21:03 | URL  | 寿司屋のおかみさん小話 #-[ 編集]
私は何がなんでも猫派です。
今も横で「たま」が寝ています。
毎朝、「たま」になんであんたに腕枕せなあかんねん!と突っ込みながら
起きています。
でも、かまうと引っかかれます。そんな猫が大好きです。v-238
2006/02/27(Mon) 23:47 | URL  | kurumi #-[ 編集]
おかみさんへ
コメントをありがとうございます。
ペットとの暮らしは楽しい思い出あり、哀しい思い出あり。
アキが死んで20年以上も経つのに、いまだにアキの匂いを覚えています。
あまり、いい匂いじゃなかったからかな・・・
2006/02/28(Tue) 22:00 | URL  | senju #-[ 編集]
kurumiさんへ
腕まくらしてもらって眠るとは、たまちゃんも贅沢なねこちゃんですね。
でも、腕まくらはしてあげるより、してもらうほうがいいかも?
2006/02/28(Tue) 22:02 | URL  | senju #-[ 編集]
senjuさん、こんばんは。
私も、4年前に愛犬を亡くしました。
アキちゃんと重なるところが、いっぱいあります。
亡くなる日、1回だけ遠吠えしたのも同じです。
今でも忘れられません。
ほんとに悲しかった。
sennjuさんの気持ち、とってもよくわかります。
愛犬との生活の日々は、宝ですね。
そして、年老いていく愛犬の様子、別れは切ないですね。
2006/03/01(Wed) 23:42 | URL  | おはな #-[ 編集]
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